既存ストックの活用へ向けて ~不動産エージェントへのレクチャーから~
以前の話になりますが、不動産エージェント向け勉強会で「建物の法適合性」をテーマにレクチャーをさせていただきました。
既存建物の不動産取引においては、法的瑕疵に対する不安や判断の難しさが大きな課題となっています。例えば、現場では以下のようなリスクや悩みが日常的に生じています。
● 不知のまま、法的瑕疵のある物件を買主へ売却してしまうリスク
● 瑕疵の有無が不明確なために取引を躊躇し、商機を逸してしまう損失
● 増築・改修・用途変更の可否が判断できないもどかしさ
これらの課題の多くは、建築士による適切な調査・検証によって解決が可能です。仮に完全な是正が困難なケースであっても、現状のリスクを正確に把握・共有できていれば、売主・買主双方が納得のうえで安全に取引を進めることができます。
レクチャー後の意見交換会では、参加者から「宅地建物取引業法に基づく重要事項説明の記載事項(耐震性や石綿使用調査など)に含まれない、その他の建築法令上の不適合事項についても告知義務はあるのか?」という実務に即した質問が寄せられました。
これに対し、同席されていた弁護士より、「売主や仲介者が把握している不適合事項など、買主に不利益をもたらす重要情報は説明・告知すべきである」との明確な見解が示され、参加者の皆さまにとっても大変参考になる議論となりました。
今回のレクチャーでお伝えしたかったのは、「法的にグレー」と捉えられがちな既存建物であっても、しかるべき手順を踏むことで適正な取引や有効活用へと導くことができる、ということです。
不動産取引に携わる皆さまの見識向上と、建築士が専門家として適切に関与することは、不動産流動化推進に寄与するだけでなく、「既存ストックの活用」という現代の社会的課題の解決にもつながります。
地道な取り組みではありますが、今後もこうした活動を継続し、専門家としての社会的責任を果たせるよう努めてまいります。
【追記】
写真は、会場となった新ダイビルの敷地内に設置されている羊の彫像です。現在の新ダイビルは2015年に建て替えられましたが、この羊の彫像は、日本の20世紀を代表する建築家・村野藤吾氏が設計した旧新ダイビルの4階四隅に設置されていたものです。建て替えに際して保存され、新ビル完成後に敷地四隅の地上へ再設置されました。
旧ビルの4階に設置されていた頃は小さく見えていましたが、間近で見ると想像以上に大きく、その存在感に驚かされます。
また、館内ロビーでは、旧新ダイビルの在りし日の姿を紹介する映像もご覧いただけます。